2009’11.27・Fri
「飼い主さまと私」
//////////////////////////
;【シーン001】
私という存在は、ここにある。
体とか心とか意識とか私を形づくっているものが一つの所に集まっていて、それが機能して、私という『個』になっている。
考えてみれば、かなり不思議だ。
端的に言ったなら、私と言う存在は生きる機械だ。
ひとつの『個』として、連携して動くパーツの集まり、それが私。
けどそれは、そういう方面から自分を見ましたってだけの話で、それが私と言うものの全てじゃあ、ない。
それはなんと言うか、人を幸せにしたり人生を狂わせたりする事のある「お金」が、端的に言えば、金属や紙でしかないのと一緒だ。
私という存在を分かり易く説明するための言葉のひとつとして「機械である」という定義があるけれども、それは、ある場面では全く役に立たない言葉で、また、ある場面では真理でもある。
本当は、たかだか、それだけの事。
まぁ、そうは言っても、私は本当に機械なんですけれどね。
歌う人型ロボット。
それが私。
田村礼子さん率いる研究室的には、人間のコミュニケーション機構の解明という壮大な目的があるらしいけれど、私自身は、その辺りはあまり気にしない方がいいという事になっている。
//CG 紫陽花の坂道を歩くミク
// 6月末
「飼い主さまぁ」
「ん? なに?」
「紫陽花ー」
「ああ……うん」
「綺麗っ、綺麗っ。うわっほぉ」
「あんまりはしゃいでると、こないだみたいに転ぶぞー、ミク」
「気をつけまーす」
「破けた皮膚の隙間から関節が露出してるのは見てて気持ちいいもんじゃないからな……」
「ん。でもあれ、直すのは結構、安いらしいですよ?」
「気分の問題なの!」
//パン 江ノ島が映る。
私の名前はミク。
みんなそう呼んでるし、私自身もこの名前を結構、気に入ってたりする。
//CG 夕方・江ノ島
「ぅわあ……」
//CG ミク
私は今、神奈川県の、鎌倉高校前と七里ケ浜との間辺りにある家で暮らしている。
飼い主さまと一緒に。
「ねー、飼い主様?」
「なに?」
「どうして、こんな風光明媚なとこに住もうとか、思ったんですか?」
「え、それは……だねぇ」
「やっぱ、あれ? ロハス?」
「……江ノ電、近いから」
「江ノ電?」
//////////////////////////
;【シーン02】
;CG_002_01
; 江ノ島
; 昼
;【SE】
; 波音
;se_002_01
; 昼の江ノ島(遠景)
; キャプション「神奈川県藤沢市」
//////////////////////////
;【シーン03】
;CG_003_01
; 主人公の家(昼)
;CG_003_02
; 作文
; 発掘されたタイムカプセルから出て来た作文
『将来の夢』
ぼくの将来の夢は、鉄道員になることです。
鉄道員になるには、時刻表をおぼえたり、おくれたダイヤをカンで修正できるようになったりするために、たくさん、おぼえたりする必要があります。
おぼえる事は、他にもいっぱいあって、たいへんです。
常人では、とてもおぼえきれないので、力をフルかつようして、寝る間もおしんで、勉強する必要があります。
ぼくはなるべく早いうちに、テツヲタにならないといけません。
サナギから蝶になるように、テツヲタから鉄道員へとステップアップするのです。
テツヲタになると、ドアのかいへい音だけで、車両が分かるそうです。
そうならないと、鉄道員にはなれません。
鉄道員になるために、ぼくが鉄道員にふさわしいかためすテストがあるからです。
「……すっごい事書いてるなぁ、今見ると」
タイムカプセルの中に入っていた自分の作文が、実家から送られて来た。
確か、体育館の入り口脇にある木の下に埋めたやつだ。
小学校の頃、全校生徒の『未来の自分へのメッセージ』をタイムカプセルに入れて埋めるという学校行事があったのだ。
僕が3年生か4年生の時だったと思う。
「飼い主さまがテツになるのにも、結構な努力があったんですねぇ」
声がしたから左肩の方を見ると、背後からミクが僕の手元をのぞいている。
「こらこら、のぞくな」
他愛もない、子供の夢だ。
実際のところは、見られて別に困るものでもない。
けれど、気恥ずかしいから注意する。
「へへ……すいません……」
頭の後ろに片手をやって、やたらと腰の低い誤摩化し笑いを浮かべるミク。
『一体、どこでそういう仕草や表情を覚えて来るんだろう?』
と思ったけど、すぐに気がついた。
テレビの時代劇だ。
調子のいい江戸っ子の町民、みたいな。
昼間にやっている時代劇の再放送を、ミクはよく見ている。
格好や言葉遣いが珍しくて面白いんだろう。
「でも、鉄道が好きって気持ちが良く伝わってきます。好感度、大ですよ」
鉄道ヲタク=テツヲタと言うのは中々に弱い立場の人間だ。
理解されがたい趣味だという自覚があるからこそ、褒め言葉の内側に嫌味とか哀れみとか皮肉とかが籠っているんじゃないかと、まず疑ってしまうような所がある。
でも、ミクなら本気でそう思ってくれていそうだ。
そうであって欲しい、と言う願望込みかもしれないけれども。
だから、ちょっと照れた。
「ドアの開閉音なんて入社試験にはないと思うけどね」
苦笑で肩を小さくすくめる。
「あっ、そうなんですか?」
ミクは素で驚いた顔を見せた。
「真に受けんなってば。子供の書く事なんだから」
「ふぅん……。私、鉄道員になるのって凄い大変なんだなぁって。子供の頃からこんなにしっかり考えて」
微笑を口もとに浮かべながらも、からかうような口調ではなかった。
だから僕は、つい、笑ってしまった。
「あっはっは」
僕に笑われて、ミクは頬をうっすらと赤く染める。
「……笑われた……」
「ああ、ゴメンゴメン」
「なによ。褒めたのに」
「ありがとう」
「へへへ。どういたしまして」
「……なりたかったですか?」
「ん?」
「鉄道員」
「んー……」
僕の事を訊かれているのに、ミクの事を考えてしまった。
ミクは歌を歌うために生まれた。
だから、最初から、音楽以外の仕事を選べない。
ミク自身はそれを辛いと思っていない。
歌を歌うのが好きだからだ。
でも、そうしたら。
好きな鉄道の仕事をしていない僕という存在を、理解しづらいのかもしれない。
好きで仕事をしているわけではない方が、人間の世の中では当たり前だとは言っても。
「音楽がキライなわけじゃないよ」
話、誤摩化しているように聞こえないかな?
と、自分で思った。
嘘は言ってない。
『普通に会社員しても大して出世とかできそうにないし、人より上手く儲けられそうなのが音楽しかなかったから』
と言う甘い目論見は、最初のうち確かにあった。
でも、続けられているのは『好きだから』だと思う。
生活の資金を稼ぐためにだけにやるには、音楽の世界は収入が厳し過ぎる。
プロを目指すと言っていた人とか、実際に一度はプロになった人とかが、一人抜け、二人抜け……。
人づてに聞いた話じゃなく、実際に見て来た話だ。
//////////////////////////
;【シーン04】
;■回想
; アン
; 若い頃の主人公とアン。
; アン 25歳
;
; 裸のアン。ベッドサイドにて
; 首のピックアップが相当にアップになっているが、それが首だとはまだここでは感じさせない。
; スクロールではなく、体の各部分を見せて行く感じで。
; 次のマリーは別の時間のシーン。
『そうね……大体、25歳ぐらいが、ひとつの山かしらね』
『ポップスだとやっぱり若くて綺麗な人の方が得だし……実力もそうだけど何か売りになるものがないと、曲も売れないから』
//////////////////////////
;【シーン05】
;回想から戻る
; 飼い主、都落ちしてきた。
今は、ミクの養育費なんかが開発元から入ってくるから、大分、楽だけど。
せめて東京都内にはいた方がいいんじゃないかと、こっちに越して来た当初は良く言われたもんだ。
本当に苦しい時代もあった。
確定申告の職業欄に『音楽家』と書いていいものかどうか迷うような年だってあった。
「え? そういう事は訊いてないですよ?」
切ない思い出にひたりかかっていた僕に、ミクがきょとんとした目で声をかける。
「あれ? そう?」
「はい」
「ああ……そう」
でも、そうだ。
苦しい日々もあったけど、それでも湘南にいつづけたお陰で、こうしてミクを預かれたんだから……。
人生、どう転ぶか分からない。
「ん?」
ミクの口もとは、多分、今の僕の顔につられたんだろう。
にやけている。
「ふへへへ」
照れ笑いをした後で。
「ええっと、あれですよ。なんて言うか、どっちかって事じゃないんです」
ミクは、そんな事を言い出した。
良く分からなかったから、僕は聞き返した。
「ん? んん?」
「私は音楽が好き。飼い主さまも好き。けど、どっちかって事じゃないんですよ」
ミクから『好き』と言われるのには、もう、だいぶ慣れた。
「ほぅ」
けれど、何度聞いても嬉しいし、何度聞いても、やっぱり体のどっかしらで照れてしまう。
「もし、そんな質問を飼い主さまが私にしたら、私、怒ります」
僕が思うよりも、ミクは人の事を分かっている。
その言葉は、恋人のありようとして理想的だった。
でも。
もしかしたら、いつか、そういう事を言ってしまう日が来てしまうのかもしれない。
場の空気や生活の苦労や上手く行かない日々の苛立ちに流されて、つい言ってしまった、だけだったとしも、言ってしまった言葉は取り返しがつかない。
決して言わない、と言う自信はなくて、それが昔の事を思い出させて、胸が少し痛い。
「怒りますからね?」
まぁ、とにもかくにも言わないように気をつけるだけは気をつけよう。
イタイ言動って言うものは、余裕のなさと暗い思い込みから出るのだ。
「はーい」
明るく返事をした。
「はい、じゃあ分かったら、ちゅうして」
「また?」
「ん。また」
そしてまた、ミクは目を閉じる。
気持ちが軽くなって、僕もまたキスをする。
僕が思うよりもミクは、僕の扱いが上手い。
---------
いつぞやのミクゲー。
既にミクじゃないし、SF……と言うか哲学的な命題を取り扱ってしまったので、ミクで出すのをやめようと思った。笑
■---「Bar Moonbeams」---
拓海ナレ「『月の光』と言う名前の通り、そこはとても静かなお店です」
拓海ナレ「東浜の車道に面したビルの二階にあって、窓からは江ノ島が見えて」
拓海ナレ「そのビルの三階から上はホテルです」
雪野「こーんなホテルに泊まりにくる人もいるのねー」
拓海「観光地ですからね」
雪野「ここに泊まるんだったら、えのすいの方のラブホにするわ、私なら」
拓海「……………………雪野さん、入ったんですか?」
雪野「私? いやさすがに地元はねぇ。藤沢のOPAの方のなら入った事あるけど……。あ、ホラ、橘通りの」
拓海「……言われても分かんないですけど……ハイ」
雪野「前彼がイキがってさぁ……。もう、ね。ドキドキだったわよ。二人とも高校生なのに。タクも気をつけてね」
拓海「あたしは入りませんよ、ラブホなんてっ」
雪野「ふっふっふ。いつかは入るのよ〜」
拓海「あたし、初めては旅行先の旅館がいいって決めてるんです」
雪野「旅館? 自分の部屋とか彼氏の部屋とかじゃなくって?」
拓海「だって、やっぱり、ロマンが欲しいじゃないですか」
雪野「(ニヤニヤと)ロマン……ねぇ……」
拓海「あ、別に新婚旅行とかじゃなくってもいいんですよ?」
雪野「あ、なんだ。違うのか」
拓海「やっぱりこう……アレですよ、単線の車両に乗って辿り着いた秘湯の老舗旅館……みたいな」
雪野「それ、ロマンか?」
拓海「だって今、和風ものがそろそろ来そうな気がするんですよ!! 修善寺あたりの老舗旅館って良くないですか? なんていうんですかね、二人、抱き締め合ってると、牡丹の花が落ちちゃう感じで」
雪野「拓海、現実と虚構は区別しようね?」
拓海「はあ……」
雪野「いい、拓海。男を落とすにはまず体!! ボディでアタック!! 次が顔」
拓海「……ハートは?」
雪野「それは後でも大丈夫。ホラ、ツンデレだって最初はツンツンしてるでしょう?」
拓海「は、はぁ……」
雪野「ハートはね、育てて行くものなの!! いきなりMAXじゃ、先々減って行くだけでしょう?」
拓海「はは……そうですね」
----------------
江ノ島ベイビィのキャラは追加した男子も含めてみんな気に入ってるけど、彼氏持ちで裏表ある雪野は面白いと思う。書いてる本人が言うのはなんだけど。
でも「次が顔」と言ってる割には雪野は顔が良く、「まず体」と言う割には貧乳なのだった。
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;【シーン001】
私という存在は、ここにある。
体とか心とか意識とか私を形づくっているものが一つの所に集まっていて、それが機能して、私という『個』になっている。
考えてみれば、かなり不思議だ。
端的に言ったなら、私と言う存在は生きる機械だ。
ひとつの『個』として、連携して動くパーツの集まり、それが私。
けどそれは、そういう方面から自分を見ましたってだけの話で、それが私と言うものの全てじゃあ、ない。
それはなんと言うか、人を幸せにしたり人生を狂わせたりする事のある「お金」が、端的に言えば、金属や紙でしかないのと一緒だ。
私という存在を分かり易く説明するための言葉のひとつとして「機械である」という定義があるけれども、それは、ある場面では全く役に立たない言葉で、また、ある場面では真理でもある。
本当は、たかだか、それだけの事。
まぁ、そうは言っても、私は本当に機械なんですけれどね。
歌う人型ロボット。
それが私。
田村礼子さん率いる研究室的には、人間のコミュニケーション機構の解明という壮大な目的があるらしいけれど、私自身は、その辺りはあまり気にしない方がいいという事になっている。
//CG 紫陽花の坂道を歩くミク
// 6月末
「飼い主さまぁ」
「ん? なに?」
「紫陽花ー」
「ああ……うん」
「綺麗っ、綺麗っ。うわっほぉ」
「あんまりはしゃいでると、こないだみたいに転ぶぞー、ミク」
「気をつけまーす」
「破けた皮膚の隙間から関節が露出してるのは見てて気持ちいいもんじゃないからな……」
「ん。でもあれ、直すのは結構、安いらしいですよ?」
「気分の問題なの!」
//パン 江ノ島が映る。
私の名前はミク。
みんなそう呼んでるし、私自身もこの名前を結構、気に入ってたりする。
//CG 夕方・江ノ島
「ぅわあ……」
//CG ミク
私は今、神奈川県の、鎌倉高校前と七里ケ浜との間辺りにある家で暮らしている。
飼い主さまと一緒に。
「ねー、飼い主様?」
「なに?」
「どうして、こんな風光明媚なとこに住もうとか、思ったんですか?」
「え、それは……だねぇ」
「やっぱ、あれ? ロハス?」
「……江ノ電、近いから」
「江ノ電?」
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;【シーン02】
;CG_002_01
; 江ノ島
; 昼
;【SE】
; 波音
;se_002_01
; 昼の江ノ島(遠景)
; キャプション「神奈川県藤沢市」
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;【シーン03】
;CG_003_01
; 主人公の家(昼)
;CG_003_02
; 作文
; 発掘されたタイムカプセルから出て来た作文
『将来の夢』
ぼくの将来の夢は、鉄道員になることです。
鉄道員になるには、時刻表をおぼえたり、おくれたダイヤをカンで修正できるようになったりするために、たくさん、おぼえたりする必要があります。
おぼえる事は、他にもいっぱいあって、たいへんです。
常人では、とてもおぼえきれないので、力をフルかつようして、寝る間もおしんで、勉強する必要があります。
ぼくはなるべく早いうちに、テツヲタにならないといけません。
サナギから蝶になるように、テツヲタから鉄道員へとステップアップするのです。
テツヲタになると、ドアのかいへい音だけで、車両が分かるそうです。
そうならないと、鉄道員にはなれません。
鉄道員になるために、ぼくが鉄道員にふさわしいかためすテストがあるからです。
「……すっごい事書いてるなぁ、今見ると」
タイムカプセルの中に入っていた自分の作文が、実家から送られて来た。
確か、体育館の入り口脇にある木の下に埋めたやつだ。
小学校の頃、全校生徒の『未来の自分へのメッセージ』をタイムカプセルに入れて埋めるという学校行事があったのだ。
僕が3年生か4年生の時だったと思う。
「飼い主さまがテツになるのにも、結構な努力があったんですねぇ」
声がしたから左肩の方を見ると、背後からミクが僕の手元をのぞいている。
「こらこら、のぞくな」
他愛もない、子供の夢だ。
実際のところは、見られて別に困るものでもない。
けれど、気恥ずかしいから注意する。
「へへ……すいません……」
頭の後ろに片手をやって、やたらと腰の低い誤摩化し笑いを浮かべるミク。
『一体、どこでそういう仕草や表情を覚えて来るんだろう?』
と思ったけど、すぐに気がついた。
テレビの時代劇だ。
調子のいい江戸っ子の町民、みたいな。
昼間にやっている時代劇の再放送を、ミクはよく見ている。
格好や言葉遣いが珍しくて面白いんだろう。
「でも、鉄道が好きって気持ちが良く伝わってきます。好感度、大ですよ」
鉄道ヲタク=テツヲタと言うのは中々に弱い立場の人間だ。
理解されがたい趣味だという自覚があるからこそ、褒め言葉の内側に嫌味とか哀れみとか皮肉とかが籠っているんじゃないかと、まず疑ってしまうような所がある。
でも、ミクなら本気でそう思ってくれていそうだ。
そうであって欲しい、と言う願望込みかもしれないけれども。
だから、ちょっと照れた。
「ドアの開閉音なんて入社試験にはないと思うけどね」
苦笑で肩を小さくすくめる。
「あっ、そうなんですか?」
ミクは素で驚いた顔を見せた。
「真に受けんなってば。子供の書く事なんだから」
「ふぅん……。私、鉄道員になるのって凄い大変なんだなぁって。子供の頃からこんなにしっかり考えて」
微笑を口もとに浮かべながらも、からかうような口調ではなかった。
だから僕は、つい、笑ってしまった。
「あっはっは」
僕に笑われて、ミクは頬をうっすらと赤く染める。
「……笑われた……」
「ああ、ゴメンゴメン」
「なによ。褒めたのに」
「ありがとう」
「へへへ。どういたしまして」
「……なりたかったですか?」
「ん?」
「鉄道員」
「んー……」
僕の事を訊かれているのに、ミクの事を考えてしまった。
ミクは歌を歌うために生まれた。
だから、最初から、音楽以外の仕事を選べない。
ミク自身はそれを辛いと思っていない。
歌を歌うのが好きだからだ。
でも、そうしたら。
好きな鉄道の仕事をしていない僕という存在を、理解しづらいのかもしれない。
好きで仕事をしているわけではない方が、人間の世の中では当たり前だとは言っても。
「音楽がキライなわけじゃないよ」
話、誤摩化しているように聞こえないかな?
と、自分で思った。
嘘は言ってない。
『普通に会社員しても大して出世とかできそうにないし、人より上手く儲けられそうなのが音楽しかなかったから』
と言う甘い目論見は、最初のうち確かにあった。
でも、続けられているのは『好きだから』だと思う。
生活の資金を稼ぐためにだけにやるには、音楽の世界は収入が厳し過ぎる。
プロを目指すと言っていた人とか、実際に一度はプロになった人とかが、一人抜け、二人抜け……。
人づてに聞いた話じゃなく、実際に見て来た話だ。
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;【シーン04】
;■回想
; アン
; 若い頃の主人公とアン。
; アン 25歳
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; 裸のアン。ベッドサイドにて
; 首のピックアップが相当にアップになっているが、それが首だとはまだここでは感じさせない。
; スクロールではなく、体の各部分を見せて行く感じで。
; 次のマリーは別の時間のシーン。
『そうね……大体、25歳ぐらいが、ひとつの山かしらね』
『ポップスだとやっぱり若くて綺麗な人の方が得だし……実力もそうだけど何か売りになるものがないと、曲も売れないから』
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;【シーン05】
;回想から戻る
; 飼い主、都落ちしてきた。
今は、ミクの養育費なんかが開発元から入ってくるから、大分、楽だけど。
せめて東京都内にはいた方がいいんじゃないかと、こっちに越して来た当初は良く言われたもんだ。
本当に苦しい時代もあった。
確定申告の職業欄に『音楽家』と書いていいものかどうか迷うような年だってあった。
「え? そういう事は訊いてないですよ?」
切ない思い出にひたりかかっていた僕に、ミクがきょとんとした目で声をかける。
「あれ? そう?」
「はい」
「ああ……そう」
でも、そうだ。
苦しい日々もあったけど、それでも湘南にいつづけたお陰で、こうしてミクを預かれたんだから……。
人生、どう転ぶか分からない。
「ん?」
ミクの口もとは、多分、今の僕の顔につられたんだろう。
にやけている。
「ふへへへ」
照れ笑いをした後で。
「ええっと、あれですよ。なんて言うか、どっちかって事じゃないんです」
ミクは、そんな事を言い出した。
良く分からなかったから、僕は聞き返した。
「ん? んん?」
「私は音楽が好き。飼い主さまも好き。けど、どっちかって事じゃないんですよ」
ミクから『好き』と言われるのには、もう、だいぶ慣れた。
「ほぅ」
けれど、何度聞いても嬉しいし、何度聞いても、やっぱり体のどっかしらで照れてしまう。
「もし、そんな質問を飼い主さまが私にしたら、私、怒ります」
僕が思うよりも、ミクは人の事を分かっている。
その言葉は、恋人のありようとして理想的だった。
でも。
もしかしたら、いつか、そういう事を言ってしまう日が来てしまうのかもしれない。
場の空気や生活の苦労や上手く行かない日々の苛立ちに流されて、つい言ってしまった、だけだったとしも、言ってしまった言葉は取り返しがつかない。
決して言わない、と言う自信はなくて、それが昔の事を思い出させて、胸が少し痛い。
「怒りますからね?」
まぁ、とにもかくにも言わないように気をつけるだけは気をつけよう。
イタイ言動って言うものは、余裕のなさと暗い思い込みから出るのだ。
「はーい」
明るく返事をした。
「はい、じゃあ分かったら、ちゅうして」
「また?」
「ん。また」
そしてまた、ミクは目を閉じる。
気持ちが軽くなって、僕もまたキスをする。
僕が思うよりもミクは、僕の扱いが上手い。
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いつぞやのミクゲー。
既にミクじゃないし、SF……と言うか哲学的な命題を取り扱ってしまったので、ミクで出すのをやめようと思った。笑
■---「Bar Moonbeams」---
拓海ナレ「『月の光』と言う名前の通り、そこはとても静かなお店です」
拓海ナレ「東浜の車道に面したビルの二階にあって、窓からは江ノ島が見えて」
拓海ナレ「そのビルの三階から上はホテルです」
雪野「こーんなホテルに泊まりにくる人もいるのねー」
拓海「観光地ですからね」
雪野「ここに泊まるんだったら、えのすいの方のラブホにするわ、私なら」
拓海「……………………雪野さん、入ったんですか?」
雪野「私? いやさすがに地元はねぇ。藤沢のOPAの方のなら入った事あるけど……。あ、ホラ、橘通りの」
拓海「……言われても分かんないですけど……ハイ」
雪野「前彼がイキがってさぁ……。もう、ね。ドキドキだったわよ。二人とも高校生なのに。タクも気をつけてね」
拓海「あたしは入りませんよ、ラブホなんてっ」
雪野「ふっふっふ。いつかは入るのよ〜」
拓海「あたし、初めては旅行先の旅館がいいって決めてるんです」
雪野「旅館? 自分の部屋とか彼氏の部屋とかじゃなくって?」
拓海「だって、やっぱり、ロマンが欲しいじゃないですか」
雪野「(ニヤニヤと)ロマン……ねぇ……」
拓海「あ、別に新婚旅行とかじゃなくってもいいんですよ?」
雪野「あ、なんだ。違うのか」
拓海「やっぱりこう……アレですよ、単線の車両に乗って辿り着いた秘湯の老舗旅館……みたいな」
雪野「それ、ロマンか?」
拓海「だって今、和風ものがそろそろ来そうな気がするんですよ!! 修善寺あたりの老舗旅館って良くないですか? なんていうんですかね、二人、抱き締め合ってると、牡丹の花が落ちちゃう感じで」
雪野「拓海、現実と虚構は区別しようね?」
拓海「はあ……」
雪野「いい、拓海。男を落とすにはまず体!! ボディでアタック!! 次が顔」
拓海「……ハートは?」
雪野「それは後でも大丈夫。ホラ、ツンデレだって最初はツンツンしてるでしょう?」
拓海「は、はぁ……」
雪野「ハートはね、育てて行くものなの!! いきなりMAXじゃ、先々減って行くだけでしょう?」
拓海「はは……そうですね」
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江ノ島ベイビィのキャラは追加した男子も含めてみんな気に入ってるけど、彼氏持ちで裏表ある雪野は面白いと思う。書いてる本人が言うのはなんだけど。
でも「次が顔」と言ってる割には雪野は顔が良く、「まず体」と言う割には貧乳なのだった。

