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あさじむおう

Author:あさじむおう
文章荒れまくってるブログですが
いつもボロボロになった1日の終わりに
書いてるので許してください。

さまざまな活動報告や、映画、音楽の感想を中心に。

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ひだまりスケッチでひぐらしの鳴く頃にをすればいいんだろうな、的なもの
「それじゃあ、凪。気を付けてね」
 
 お母さんが、私に言った。
 私は、なるべく元気に笑ってみせる。

「うんっ」

 お父さんは、すまなさそうな顔をして、私に謝る。

「ごめんなぁ、凪。お父さんたちも一緒に引っ越せれば良かったんだけど……」

 私は首を横に振る。
 二人とも、駅まで見送りにきてくれた。
 私はもう、それだけで充分。

「私、大丈夫だから。ひとりでも立派に暮らしていけますっ。お父さんとお母さんの娘だもん」

 ガッツポーズを作って強がると、お父さんが頭をぐりぐりと撫でる。

「や……。お父さん、髪の毛乱れちゃう」
「あ、ごめんごめん」

 そんな私とお父さんの様子を見て、お母さんはくすくすと笑う。

 出発の朝。
 今日から私は、一人で生きる。
 お父さんやお母さんや、生まれて育ったこの町を、ずっとずっと遠くまで離れて。

「何か困った事があったら、すぐに連絡するんだよ。メールでも携帯でもいいから」

 お父さんが言った。

「うんっ」

「体には気を付けて」

 お母さんが言った。

「うんっ、うんっ」

「ホームまで荷物、持ってこうか?」

 お父さんが言う。

「んーん。いいよ。改札くぐるだけでもお金とられちゃうから」
「入場料ぐらい……」

 不満そうなお父さんを、お母さんが叱る。

「あなた」
「だってさぁ。こんな重そうなバッグ、凪ひとりで持ってくなんてさ。俺が新居まで……」 
「だめですよ。せっかく凪が、一人でがんばるって気持ちになってるのに。ねぇ、凪?」

 私は苦笑いしてしまう。

「はは……。でも、ありがとう、お父さん」

 お母さんが腕時計を見る。

「あ、ほら。そろそろ時間よ、凪」
「本当だ。もう行かないとね」

 キャリーバッグの取っ手を握る。 

「本当に気を付けて」と、お母さん。
「元気でな」と、お父さん。

「うんっ。お父さんもお母さんも、元気でね」

 二人に背を向けて、私は自動改札機に切符を入れる。
 がこん、と派手な音がして、ゲートが開く。
 足がちょっと震えていた。
 開いたゲートの先へ踏み込めば、私の新しい日々は、そこから始まるんだ。

 大きく息を吸って、笑顔を作る。
 そして、背中の二人に振り向いて、大きな声で言った。

「それじゃ、行ってきますっ」

「行ってらっしゃい」と、お母さん。
「うん、行っといで」と、お父さん。
 ふたつの声は、重なっていた。

 先へと足を進めると、窓の向こうに、電車がホームへと向かってくるのが見えていた。
 滑り込んで来る前にホームに降りないと、乗り遅れてしまうかもしれない。

「うわっ、うわわわっ。電車来ちゃうっ!」

 普段なら間違いなく間に合うけれど、今日は重いバッグがある。
 私は慌てた。

「あっ、そうだ。凪っ!」

 ホームへの階段までダッシュしかけた私の背中に、お母さんの声が届いた。

「はいっ?」

 私は振り向く。

「忘れてた。これっ」

 振り上げた手に、何か持っている。

「え? え? うぇぅ?」

 何しろ慌てているので、私には荷物を放って改札まで戻るという頭がない。

「お母さん、電車来ちゃうよ」

 お父さんがお母さんをたしなめる。
 お母さんは私に言った。

「投げるわよ?」
「え、えーっ?」
「それっ!」

 お母さんは、本当にそれを、投げた。
 暴投気味に頭上へ飛んだそれを、私はつま先立ち……でも届きそうになかったから、ジャンプして……。

「うわっ、とっ」

 掴んだ。

「ナイスキャッチ」

 お母さんがパチパチと手を叩く。

「てへ」

 褒められて、私は照れる。

「ほらっ、電車来るぞ、凪っ」

 お父さんが言う。

「うわわわわ。そうだった」

 私は二人に、ぺこりとお辞儀する。
 そして体を起こしてから、さっきよりももっともっと元気な声で、最後の挨拶をする。
 
「それじゃあ、本当の本当の本当にっ、行ってきますっ」

 二人は笑って見送ってくれた。

 ありがとう、私を生んでくれた人。
 あれ? でも、そうか……。
 お母さんは私を生んだけど、お父さんは生んだわけじゃない……のかな?
 でもとにかく、私の体は、お父さんとお母さんの一部から作られている。
 だから、正確に言うのなら……

//● 凪、電車の中
 
 指を、開いてみる。
 右手の指を。
 小指から順にゆっくりと開こうとしたけれど、そんなに器用にはできなくて、ぷるぷると震えてしまう。
 なんで私は、こんなにずっと、握ったままでいるんだろう。
 それって弱さじゃないのかな? これから一人で生きていかなくちゃなんないのに。
 そんな風に反省もするけれど、まだしばらくはいいよね?
 
 指を開けば現われる。
 お母さんが投げて渡してくれたもの。
 
 お守り。
 
「へへ」
 
 自然に笑顔になってしまう。
 ポケットの中で携帯が鳴った。
 マナーモードにするのを忘れていたらしい。
 焦ったけれど、同じ車両に他の乗客はいないのは知っている。
 携帯を開いてみると、お父さんからのメールだった。
 たくさん書いてあるけど、最後にひとつだけ、質問が書いてあった。
 
『ちゃんと電車に間に合ったかい?』
 
 二人に見送られたあの駅についた電車の事ではなくて、二回の乗り換えの後の、この電車の事だ。

『うん、平気だよ』

 電車は今、山の近くを走っている。
 ちょっと離れた所に山があって、その前に畑が広がっていて、ぽつぽつと家がある、そんな所だ。
 畑か山か川か、そんな光景がいつまでも続くたみたいだった。
 前に来た時にも見たけれど、やっぱりこうなんか、新鮮な感じがする。
 
 私は、お父さんにメールの返信を書く。
 長々と書いているうちに、大事なことを忘れちゃいそうので、まず、最初に書いておいた。

『お母さんに、お守り、ありがとうって伝えといて』


 だから、正確に言うのなら……。

 ありがとう、私を作ってくれた人。

 ありがとう、お父さん、お母さん。
 本当の本当に、ありがとう。

「……おわっと。いちお、マナーモードにしとかなきゃ」 

//● タイトル

「ふぅ……はぁ……ふぅ……はぁ……」

 何度も何度も折れ曲がって蛇行する、幅の狭い階段を登っていく。
 舗装はされているけれど、結構、急で、息が切れてしまう。

「ふぅ……はぁ……はぁ……ふぅ」

 引いているキャリーバッグが重い。

「う、うう~……。やっぱり、こっちも一緒に、引っ越し屋さんに持って行ってもらえば……良かった!」

 どうして、これだけ自分で持って行こうなんて、私、思ったんだろう。

「はぁ……はぁ……っ、ひー……うぅ……」

 確か、自分で持って行く荷物がないと新生活の気分が出ないとか、そんな理由だった気がする。

「あとちょっと、あとちょっと……っ」
 
 自分をはげましながら、一段一段を踏み上がっていく。
 道は急だけど、そんなにまでの高さはない、小さな山。
 てっぺんまで登り切らない横道をちょっと入った所に、私の今日からの住まいはある。

「つい……た……っ!」

//● おはよう館

 おはよう館。

「ふぅ……」

 大きく息をつく。
 それから、静かに、大きく、深く、息を吸う。
 数えきれないほどのたくさんの葉っぱから生まれたてみたいな清々しい空気が、肺に流れ込んで来た。
 
 緊張を振りほどいて、大きく笑顔で建物に挨拶をする。
 
「今日から、お世話になりますっ」

 お辞儀をした。

 周囲を緑に囲まれた、山の途中の、この建物。
 そう。今から、ここが 私の家だ。

//● おはよう館・玄関

「すみませーん」

 引き戸になっている入り口から、中へ入って、声をかけた。

「……あの、すみませーん」

 応答がなかった。

 たたきから上がったすぐ左に、管理人室の窓口があって、そこから部屋の中に電気がついているのが分かる。
 だから、声をかければ管理人の米沼さんが出て来るだろうと思ったのだけれど、その気配はなかった。

「お留守かな?」

 もう一度、声をかけようかどうか迷っていると、とんとんと足音が響いてきた。

 とん……とん……。

 足音は、階段を降りて来るようだった。
 階段は私のまっすぐ奥、廊下の突き当たりにある。
 下りてくるのなら、私と向き合う形になるかな、と思って、ちょっとの間、待ってみる事にした。

 とんとん……とん……。

 足音は近くなってくる。

 ……とん。

 階段を下りて来たのは、髪の長い女性だった。

「あら」 

 玄関の私を見つけて声を上げた彼女に、私は勢い良くお辞儀する。

「どっ、どうもっ、こんにちはっ」

 彼女が廊下を、静かに近づいて来る。

 私のすぐ前までやってきてから、彼女は、こう訊いた。

「もしかして、三〇四号室の?」

 ほんわかと優しそうな声をしたお姉さん、だった。
 垂れ目がちで、栗色の髪が、なだらかに腰ぐらいまでカーブしている。これだけ長いと痛みも激しそうなのに、淡い日の光にキラキラしていて、すごく柔らかそうだった。

 そして、その淡い光に何かが蒸発しているように、体から、甘くて優しい匂いが立ち上ってきていた。

「はっ、はいっ! なぎと申しますっ! あっ、名字は森岡っ、森岡凪ですっ!」
「森岡さん……」

 お姉さんは、私の名字を繰り返した。

「はひっ!」

 緊張のあまり、声が裏返ってしまった。
 多分、私以外の入居者の方なのだろう。
 初めて会う人だ。
 お父さんと一緒に、この『おはよう館』に来た時には、管理人の米沼さん以外とは誰にも会わなかった。

 お姉さんは、慌てまくっている私を見て、くすくすと笑った。
 それから、甘くて柔らかな声で、こう言った。
 
「私はニ◯四号室の深田弥生。よろしくね」

//● おはよう館・三階階段

「米沼さん、どこ行ったのかしらね。電気ついてたし、多分、その辺りにいるとは思うのだけど……」

 階段を上がりながら、深田さんは言った。

「あの……深田さん」
 
 私は深田さんの後ろについて、キャリーバッグを、よいしょ、よいしょ、と持ち上げながら階段を上がっている。
 もうすぐ、三階だ。
 すぐ上から落ちて来る甘い匂いを胸に吸い込みすぎたのか、ちょっと、気持ちが、ふわふわしている。

 三階についてから、深田さんは私の方を振り向いて言った。

「弥生でいいわ」
「え……」

 私は最後の一段を上がる。
 三階についた。
 廊下で、二人、向き合う。
 キャリーバッグは床に置けた。玄関で、深田さんが持って来てくれた雑巾で底と車輪を拭いたので、置いても泥で汚れる心配はなかった。

「ふふ。だめ? 馴れ馴れし過ぎるかな?」

 私は慌ててしまう。 

「とっ、とんでもないですっ!」
「それじゃあ、弥生でお願いね」
「はい……。や、弥生さん」

 照れながら呼んでみる。 
 くすくすと微笑んで、深田……弥生さんは応えてくれた。
 
「なぁに? 凪ちゃん」

 弥生さんの私の名前の呼び方は、「な」と「ぎ」の間を、柔らかに延ばす感じだった。
 文字にしてみると

 なぁぎちゃん

 と言う感じ……。
 
「はっ、はうぁぁぁぁぁぁっ!」
 
 私が、あわあわとしていると、弥生さんは片手の揃えた指で口を隠して、こう言った。

「あ。不公平かな? 自分は、ちゃん禁止しておいて……」
「あっ、いえっ。いいえっ、全然っ。ただ、凪ちゃん、なんて呼ばれたの、凄く久しぶりだから……その……」

 弥生さんが小首を傾げる。

「その……なに?」
「照れ、ます……」

 顔が熱い。
 真っ赤になっているのが自分で分かった。

「ふふふ。可愛いわねぇ。なぁぎちゃん」

 またしても、間を延ばす発音で弥生さんが言う。

「はぅっ」
 
 絶対、ぜったい……からかわれてる。

「さ。こっちよ。三◯四号」
「は、はひ……っ」

//● 階段
 ……。
 ……。
 が……っ
 がたっ……。
 がしゃっ。

//● 三◯四号室

 がちゃっ。

「はい。ここが凪ちゃんのお部屋。三◯四号室です」
「はいっ」

 三個の段ボールが部屋の真ん中に積まれている。
 引っ越し屋さんが気を利かせてくれたんだろう。家具はすでに、壁際に置かれていた。
 あ、でも、ちょっと配置変えたいかな……机とか。

「……荷物の片付け、手伝おうか?」

 弥生さんが言ってくれた。 

「あ、平気です。そんなにないから」

 私がそう答えると、弥生さんはダンボールへと目を向けて、小さく首をかしげる。

「確かにそうね……。どうして?」
「引っ越し屋さんが、衣類はタンスに入れたまま運んでくれるって」
「あ、なるほど……。でも、それじゃあ位置変えたかったりしたら、一度、出さなくちゃいけないんじゃない?」
「そうなんですよね……やっぱり引っ越し屋さんと一緒に来れば良かったかも……」

 私は肩を落として、溜め息をつく。
 弥生さんが言う。

「んー。じゃあ、もし人手が必要になりそうだったら、呼んで? 手伝うから」 
「……いいんですか?」
「うん。私の部屋、ここの真下だから」

 それでようやく気がついた。
 慌てて頭を下げる。

「あっ、すみませんっ! 音、立てないようがんばります」
「ふふふ。派手に音を立てる時に私がこっちにいれば、なんにも問題ないわよ」

 本当に優しいお姉さんだ。

「は……はぃ……。そ、それじゃあ、お世話になります」
「はい。他にも、なにか困った時には、いつでも呼んでね」

 私はひとりっ子で、兄弟とか姉妹とか、そういうのがいない。
 でも、もし、いたとしたら、こんなお姉さんがいいな、って、ちょっと思った。

//●● 三◯四・弥生が去った後

 弥生さんがいなくなった後、ダンボールを開いて、仲のものを棚につめる作業を
していた。
 結局、机の位置だけ変える事に決めた。
 良く見ると、タンスはそんなに不便な位置にはないし、この棚も他に適当な位置を思いつかないし、鏡だって……

「……」

 ……鏡……だって……。

「…………」
 
 鏡が、ある。
 焦げ茶色の、小さな机のような台の上に、備え付けられた縦長の鏡。

「……鏡……?」

 鏡台だった。
 結構、古いもののような感じがする。

 私の鏡じゃ、ない。

「……え? 私のは? どこ?」

 部屋の中を見回したが、見当たらない。
 自分の家から運んでもらったはずの、全身が映る姿見がない。
 その代わりに、古びた焦げ茶の鏡台がある。
 あれは、つまり……

「……ひ……ッ!」

 私ではない、誰かの、だ。 

 立ち上がる。
 あるわけない、とは思いつつ、タンスの扉を開けてみる。

「……っ」

 ない。

 まさかここに、と期待しつつ、押し入れの扉も開けてみる。

「……っ!」

 ない。

「……ない……よね……。やっぱり……」

 私は、押し入れの扉の前にへたり込んでしまう。

「え、やだ。引っ越し屋さんが割っちゃって代わりに置いたとか? まさか、でも……」

 どうすればいいのだろう。
 まずは……まずは、引っ越し屋さんに電話して、確かめないと。
 あれ? でも電話番号なんだっけ?
 携帯の電話帳に登録しておいたっけ?
 でも、でも、でも、そんなことって、あるのかな?
 割ったからって、無断で、全く違う鏡台を置いて帰るなんて……。
 あまりにも、常識が、なさすぎる。

//● 回想

『何か困った事があったら、すぐに連絡するんだよ。メールでも携帯でもいいから』

//

 ダメだ。
 この程度で、頼ったりなんかしちゃあ……。
 まだ一人暮らしを始めて、一日目なんだ。


「しっかり……しなくちゃ……」

 ……ピー……

「……しっかり……」

 ……ピー……ピー……

「…………しっかり……」

 ……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

 繰り返す、全く同じ音が、聞こえて来ていた。
 留守番電話の発信音のような、無機質で単調な、一定の間隔で繰り返される電子音だ。
 くぐもっている。
 その音は、くぐもっている。
 それは、その音を発している何かが、どこかに埋もれているからだ。
 そういう感じの音だ。

 ……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

 そして、その音は……。
 鏡台の方から聞こえて来ていた。

「……」

 ……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

「…………」

 ……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

「………………」

//●● 三◯四・鏡台前

 ……ピー……ピー……ピー……ピー……

「…………こ……」

 おそるおそる、鏡台の前まで行ってみる。

「これはきっと……その、神様が与えてくれた試練……なんだよ。きっと……」

 恐くて足が震えてしまっていて、立つことが出来なかった。
 四つん這いになってしまう。

「……どんな、って、その……ちゃんと、ひとりで生きて行けるかどうかとか……」

 だから、そうだ。
 この程度で、お父さんやお母さんを頼っちゃダメなんだ。

 自立しなくちゃ、いけないんだ。

 鏡の表を覆う布は、初めから、めくれていた。
 鏡に私の姿が映っている。

 ピー……ピー……ピー……ピー……

 音は鳴り続けている。
 確かに、鏡台のどこかから聞こえて来ている。

 鏡台には、三つの引き出しがあった。
 前に長細いのがひとつ、横に縦に並んだふたつ。
 このどこかの中、だろうか?

 思い切って、引き出しを開けてみる。

「……っ」

 ない。

 次の引き出しを開けてみる。

「っ!」

 ない。

 最後の引き出しを開けてみる。

「……え?」

 ない。

「え、どこ?」

 ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

 音は止まない。
 この近くから聞こえているのは確かだ。
 もう少し、もう少し、下の方……。

//【CG】 丸椅子・鏡台の中

 ……これ?
 
 ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

 鏡台の下に、椅子が入っていた。
 赤色の丸椅子だ。

「あ、そか。これって……」

 ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

 丸椅子を引き出してみる。

 くたびれた赤い表面の、丸い筒だ。
 クリスマスのチキンのボックスみたいだった。
 いつか、お父さんが買ってきたのだけれど、家族三人では一日で食べきれなかったのを思い出す。
 あの時のボックスと同じ用に、この丸椅子も、中は空洞になっていて、フタが開くようになっているのだと、思う。

 ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

 座面のフチに、手をかける。

 ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

 思った通りだ。
 チキンのボックスとは違って、蝶番がついているけれど、開くようになっている様子だった。

 私は、丸椅子のフタを開ける。

//【CG】 丸椅子・開ける

 ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

 音が大きくなった。
 遮るものがなくなって、ピーという電子音の背後には、絶えず、ザーザーというノイズが走っているのも、分かった。

 丸椅子の中、そこにあったものは……。

「……ラジオ?」

 プラスチック製の、古びたラジオだった。
 色褪せたようなクリーム色をしている。

 ピー……ピー……ピー……ピー……ピー……

 スイッチを切る。

「あ、止まった」

 音が止まった。

「良かった……。はぁ……」

 止まらなかったらどうしよう、と、思っていたけれど、止まった。
 ほっと、胸をなで下ろす。

 その時……

 コン、コン……。

「ひッ!」

 ドアを叩く音が、部屋の中に響いてきた。

//●● 三◯四・美由紀、芹菜登場

「どうもっ! こんにちは~っ」

 元気よく挨拶してくれた彼女に、私は

「……」

 ただただ、なんだか唖然としてしまった。

「ん? どしたの?」

 背の高い彼女が、腰を少し曲げて私の顔を覗き込む。

「あ。いいえ……。あの、人間ですよね?」

 つい、訊いてしまう。

「は?」

 彼女は首を傾げる。

「いやっ、なんでもないんですっ。ごめんなさい。変な事言って」

 ドアを叩く音がして、おそるおそる開けてみると、彼女が立っていた。
 かなりの勇気をふるったのに、ドアの向こうに立っていたのが、こんな明るいオーラを振りまく人だったので、拍子抜けを通り越して唖然としてしまったのだ。

「あなたが、新人さん? だよね?」

 彼女が訊く。

「あっ、はいっ。すみません。私っ、森岡凪と申しますっ」
「はいはいー、どうも。私は一◯三の竹本。竹本美由紀。ヨロピク~」
「竹本さん、ですか」
「美由紀でいいよ。どうせ弥生さん、名前で呼ばせてんでしょ? 無理矢理」
「あ……はい……。はは……」

 笑ってしまってから、慌ててフォローする。

「あっ! 別に無理矢理って訳ではっ!」
「ははは。気をつけないと、食われちゃうぞぉ~? ぱっくん、って」
「食わ……れる……」
「性的に、って事」
「せっ、性的っ? って、あの、その、つまり……っ」
 
 慌てる私を見て、美由紀さんはにんまりとイジワルな笑みを浮かべた。

「そう。あの人は、この『おはよう館』の生ける都市伝説なんだから。入居者の女の子を、み~んな、ぱっくん。もちろん性的に」
「え……。ぅえー……」
「ま、気を付けなさいな」
「……って、あれ? それってつまり、竹本……あ、美由紀さん、も、ですか?」

 入居者の女の子をみんなぱっくん、なら、当然、美由紀さんもその中に入っている事になる。
 そう思って訊いたのだけど

「……はッ! はぁぁぁぁッ!」

 美由紀さんは思いっきり、うろたえた。
 何か、してはいけない指摘をしてしまったらしい。

「あっ。いいえっ! 私、こう思います。愛の形は人それぞれだと!」

 フォローのつもりで、そう言ってみる。

「えっ、あっ、愛? ああ、そう? あはは。いゃまぁ、それはいい! いいんだ!」

 妙な感じに誤摩化された。
 どうもフォローに失敗したらしい。

「それより、もう一人! もう一人いるんだ!」

 美由紀さんは、強引に話題を変えてきた。

「はい……」

 結局、美由紀さんが、ぱっくんされてしまったのかそうでないのか、それはウヤムヤになってしまった。
 多分、私をからかうつもりで言ったんだろう。
 でも、私が余計な指摘をしてしまったので、自滅したんだろう。
 どうでもいいと言えば、どうでもいいことのような気もする。
 それに……
 あんな優しいお姉さんに、ぱっくんされるんなら……それもまた……。

「うへへ……」

「じゃんっ! この子が、芹菜」

 ぼうっとしていた所に、美由紀さんの元気な声が飛んで来て、びくっとなりながら返事をする。

「はっ。はいっ?」
「氷上芹菜。ほら、挨拶、挨拶っ」

 そう言って美由紀さんは、いつの間にか横にいた女の子の肩を、ぽんぽんと叩く。
 とても可愛らしい女の子だった。
 真っ黒ストレートで、小柄、着物は着ていないけれども、なんだか日本人形みたいな女の子だ。
 きっと、私よりもずっと年下だろう。

「ほら芹菜。黙ってないで、挨拶しなよ。失礼だよ?」

 美由紀さんが促す。

「あ、別に失礼とかは……ないですけど」

 私がそう言うと、芹菜ちゃんの口から、声が漏れた。

「あ、あああ、あ、う、ぁぁぁ……うぅぅぅぅ……」

 体がガクガクと震えている。
 うつむけた顔も真っ赤だ。

「ああぁぁぁぁ……う、うああああああああああああああああ」

 発する声も、言葉になっていない。
 目に涙が溜まり始める。
 相当、緊張しているらしい。
 
 私は、ふと思い出す。
 こういう時、どうしたらいいか。
 自分なら、どうして欲しいか。

 私は腰を曲げる。
 芹菜ちゃんと、目線を合わせるために。

「こんにちは、芹菜ちゃん」

 にっこりと微笑みを作る。

「ぁ、あぅ……あ」

 芹菜ちゃんが私の目を見る。

「森岡凪です。よろしくね」
「あ……あ……ぅ」

 これはつまり、さっき、弥生さんが私にしてくれた事そのままだ。
 お互い、初めて同士。緊張しているのは、おんなじだ。
 お姉さんである私の方から、優しく接してあげれば、きっと……。

「い、一◯ニの氷上芹菜……です。あぅ……あ」

 芹菜ちゃんは、ガクガクと震えながら答えてくれた。
 美由紀さんが、芹菜ちゃんの耳に口を寄せて言う。

「よろしくお願いします、は?」
「よよよよよよよよよよよよよろしくお願いしますっ!」

 芹菜ちゃんが思いっきり頭を下げる。
 目の前には私がいたので、当然、頭と頭がかち合う事になる。

「ぐぁ……っ」
「あぅっ」

 すごい衝撃が頭の中を駆け巡り、そして、世界が揺らめいて……

「ちょっ、凪ちゃんっ? 芹菜っ?」

 真っ暗になる世界のどこかから、美由紀さんの声がぼんやりと……聞こえていた……。


///////////////////////////////////
出だしは、ゆのっちですね!!
キャリーバッグは、いろはですね!!
ひぐらし成分は薄い……というか、ひぐらしは要所要所しか知らなかったりする。

これはこれで、案外ウケるんじゃなかろうか、とも思うんだけども、もうちょっと煮込みたいなぁ、という事で、とりあえず、没。

新年前のお蔵出しでした。
あ、AIRNOVELで実写背景とかで出そうと思ってた。笑
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